研究概要 |
予備調査の結果,東南アジアの主たる養殖産業であるタイ国のエビ養殖は,その中心地が,シャム湾沿岸からアンダマン海側に移動しつつあった.そこで,アンダマン海沿岸のトラン県シカオのシカオ水路を主たる調査地点に定め,継続的に調査を行った.調査の結果,シカオ水路は,外洋に面し,潮汐の変化に比べて流程が短く,水路全体としては水の交換が良いこと,水路内には部分的に水の停滞しやすい場所があり,これらが,魚類の生育場所として重要な機能を果たしていることがわかった.また,養殖池は面積としては規模が小さく,水路に接するヤシやゴムなどのプランテーションや畑地が養殖池に転用されていた.これらのことから,シカオ水路周辺のエビ養殖が,周辺環境へ与える影響は小さいものと推測された.これは,極めて集約的でありながら水の交換を抑えた,高度な養殖技術によっって,狭い土地での養殖が可能になったためであった.結論的には,池の建設によるマングローブ林の破壊,排水による水質の悪化等の問題を考えると,アンダマン海沿岸におけるエビ養殖は,大型の池で多量の飼育水を排水する従来型の養殖に比べて,より環境調和的であるといえる.しかしながら,東南アジア全体で広くこのような形の養殖を行うためには,集約的かつ用水の交換を最小限に抑えた養殖技術が不可欠であり,そのような技術を持たない国では,技術的な指導・援助がなければ,このようなエビ養殖の実施は不可能であると考えられた.また,自然水路の持つ海水交換能力を超えた養殖生産を行うために,交換能力を向上させることを目的とした水路の改変等が行われれば,生物層の豊かな停滞域が失われ,水路の生態系は大きく変わると予想される.その意味では,現在の自然水路の機能をそのままの形で利用するべきであり,水路ごとに,適正なエビ養殖場の規模を算定し,その範囲内で養殖を行うことが重要であると結論された.
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