研究課題/領域番号 |
10041174
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 海外学術 |
研究分野 |
生態
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
岩本 俊孝 宮崎大学, 教育文化学部, 教授 (40094073)
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研究分担者 |
土肥 昭夫 九州大学, 理学部, 助手 (80091247)
森 明雄 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (50027504)
庄武 孝義 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (00003103)
アーマド アル・ブーク サウジアラビア国立野生生物研究センター, 研究所員
アフォーク ベケレ アジスアベバ大学, 理学部, 教授
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研究期間 (年度) |
1998 – 2000
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研究課題ステータス |
完了 (2000年度)
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配分額 *注記 |
15,400千円 (直接経費: 15,400千円)
2000年度: 4,400千円 (直接経費: 4,400千円)
1999年度: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円)
1998年度: 5,500千円 (直接経費: 5,500千円)
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キーワード | マントヒヒ / ゲラダヒヒ / 適応放散 / 系統進化 / 社会構造 / 集団遺伝 / 採食生態 / 子殺し行動 / 社会進化 |
研究概要 |
本研究の目的は、アフリカの角と呼ばれる地域からアラビア半島にかけて分布しているヒヒ類の適応放散に関する歴史の解明と、その過程で生じた社会構造上の変化を適応放散の過程で晒された生態的環境と関連づけることである。その中でマントヒヒとゲラダヒヒはいずれも重層社会を形成するが、ゲラダヒヒは母系、マントヒヒは父系とその構造は根本的に異なっているとされてきた。霊長類の中で特異な重層社会が、どのように進化してきたのかを知ることも本研究の具体的目標となる。当然、社会構造は行動型の組み合わせでもたらされ、その行動型はサルの場合遺伝子によって主に変わる。従って、本研究では、フィールドにおける社会・生態学的観察と同時に、個体群の隔離年代と血縁関係を知るために遺伝学的分析も併用された。 エチオピアの地溝帯より南部に残存するゲラダヒヒの小個体群は、本課題以前の研究から地溝帯北部に棲息する主個体群とは異なった社会・生態学的特徴を備えていることが分かっていた。しかし、本研究によりさらに、群の再編成がかなり頻繁に生じ、彼らの社会構造が本来の母系制社会から多少はずれたものであることが示唆されることとなった。その変異は、餌及び水資源量の少なさ、高捕食圧の環境と密接な関係にあると推察された。 他方、本研究において主たる調査対象となったサウジアラビアに棲息するマントヒヒについても、その生態や社会構造が深く解明された。彼らはアフリカ本土のマントヒヒ社会と基本的には同じ生態および社会構造をもっているものの、サウジアラビアの特殊な地形、捕食圧などによると思われる微妙な変異を獲得していた。また、いわゆる子殺し行動はここにも存在するが、その特有の遺伝子は存在しないと示唆される観察結果を得た。さらに、遺伝学的な血縁分析により、彼らのハレム型の社会ではリーダーオスの交代が極めて速いスピードで生じているという結果を得た。上記の観察結果であるゲラダヒヒの早いユニットの再構成速度と考え合わせると、両種の社会構造は知られているよりずっと類似したものである可能性が指摘される。 集団遺伝学的分析により、ゲラダヒヒの地溝帯より北部の個体群と南部の個体群の分離の年代は約35万年前と推定された。さらに、マントヒヒの適応放散の経路について一つの仮説が得られた。すなわち、これまでの説とは逆に、アヌビスヒヒに近い祖先がサウジアラビアでの隔離によりマントヒヒ種となり、それがアフリカに広がったという説である。 以上、本課題では詳細な生態・社会・遺伝学的分析により、この両種についてのこれまでの常識を覆す、いくつかの貴重な知見を得ることができた。
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