1997年度に引き続き、本年度も香港人アイデンティティーに関する聞き取り調査の分析を行った。聞き取り調査は香港大学社会科学研究センターの鐘庭耀氏の協力を得て、98年5月に実施された。調査対象となったのは選挙権を有する18歳以上の男女である。香港人アイデンティティーを主張する住民の多くは、広東語を常用する中国系住民であるので、調査もまた広東語を使用して行った。有効サンプル数は522件、回答率は43.6%であった。香港人アイデンティティーについては、「あなたは自分自身を香港人と思うか、中国人と思うか、それとも香港人でもあり中国人でもあると思うか」という設問によって検証した。当該設問は香港の世論調査でしばしば繰り返されてきたが、十全なのでないことは筆者も自覚している。「中国人」は多様な概念を内包している。自身の文化的背景を意味する用語としてとらえる者もいるであろうし、また政治的帰属を示す用語としてとらえる者もいるであろう。しかしながら、この質問の目的は「香港人」と対比させた際に、住民がどちらの概念を優先して採用するかを看取することにある。97年調査では、回答者のうち49.2%が「中国人である」と回答し、38.2%が「香港人である」と回答し、10.0%が「中国人でもあり香港人でもある」と回答した。これに対して、98年調査では回答者のうちち46.2%が「中国人である」と回答し、43.1%が「香港人である」と回答し、8.6%が「中国人でもあり香港人でもある」と回答した。両調査は同様の傾向を示している。
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