研究概要 |
本研究課題では,(1)個別企業データによる利益率間の関係と分布,および,(2)多角化と収益性の関係-繊維業界を事例とした実証分析-という二つのテーマのもとに研究した。(1)のテーマでは,日経NEEDSの1995年度一般事業会社・本決算データに基づく分析をした。(2)のテーマでは,繊維業界約70社の有価証券報告書のうち,1970年から1995年までのデータを収集し,データベースを作成した。 (1)のテーマの結論について記述する。個別企業データを用いて,販管費率(販売費および一般管理費を売上高で割った値)をいくつかの説明変数に回帰した結果,産業ダミー変数まで考慮すると,0.589であり,それなりに高い決定係数が得られた。それに対し,営業利益率の場合には0.256と低かった。小分類産業で集計したデータを用いて同様の回帰をすると,販管費率の場合には0.818,営業利益率では0.584であった。さらに,中分類産業で集計したデータでは,販管費率は0.981,営業利益率では0.902であった。このことから,個別企業データにおける営業利益率の変動は,誤差といえる多くの細かい要因から成り立っており,その分布は正規分布に近いと推測された。それに対し,販管費率は産業別の要因に影響されていると考えられた。 営業利益率の分布を検定すると,実現した営業利益率の分布は正規分布とは言えなかった。というのは,株主に配当する原資である当期利益をマイナスにしないような要因が働くこと,また,大きな営業利益が実現するときには,それを販管費にまわす力が働くこと等からである。その分岐点となる営業利益率は3.5%であった。このような要因を除き,本来期待される営業利益率を求めると,その大部分は正規分布に従うことが言えた。 販管費率については,産業別の要因に影響されているので,その分布は正規分布ではなく,プラスに歪んだものになっていることが分かった。
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