日本人幼児と母親の対話分析から、母親は子どもに対し(1)限られた種類の助数詞を、(2)高い頻度で用い、(3)幼児の言語レベルに応じた訂正フィードバックを行うことが明らかになっている。このような特徴は助数詞を有する他の言語(中国語)でも見られるのか。本年度は、北京市在住の中国人親子49組から収集した対話資料(1997年収集)を書き起こし、分析した。親-子(2、3、4歳)の対話と親-大人の対話において親が用いた助数詞の(1)種類、(2)頻度、(3)助数詞の獲得に寄与すると考えられる発話を調べたところ、以下の結果が得られた。(1)助数詞の種類:一般的な助数詞である「個」の割合は、対2歳児では6割、対3・4歳児では4割、対大人では3割であった。親は相手の言語レベルに応じて、助数詞の種類を変化させている。(2)助数詞の頻度:対大人での助数詞使用頻度は約7回だが、対2歳児ではその約3倍、対3歳児では約1.5倍である。子どもの年齢が低くなる程、発話の繰り返しが多くなり、そのために助数詞の頻度も増加する。(3)助数詞の使用を精緻化する発話: 「数+助数詞」の規則の獲得に寄与すると考えられる発話「幾+助数詞+名詞?」と「数字+什マ?」をカウントした。前者は年齢とともに減少し、後者は3、4歳でのみ見られる。親は子どもが助数詞を適切に用い、精緻化できるような文脈を提供しているといえよう。なお、資料中7組が父子であった。母・父の比較から、同じ家族であっても、子どもに供給される言語的環境は必ずしも同じではないことが示唆された。 以上、中国語の対話資料においても、養育者は幼児に対し、(1)限られた種類の助数詞を、(2)高い頻度で用い、(3)助数詞の使用や精緻化を促す発話を行っていることが明らかになった。養育者は幼児が晒される語彙に制約を与え、幼児が切り出しやすい形で語彙を提示し、幼児がその語量を定着させたり精緻化したりする場を保証しているといえよう。
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