研究概要 |
本研究では,副詞の使われ方から,人間の時間感覚の成長を測定した.対象とした副詞は,時間的な概念を表す「もう」と「まだ」である.「もう」は将来を考慮することで現在を表現し,「まだ」は過去を考慮することで現在を表現する.この意味で,反対語であり,通常はある時間を表現する場合に「まだ」を用いても「もう」を用いてもよい.実際に,子供がどのような表現を好むかを,アニメーション作成システムを用いて測定した.このシステムは,様々なキャラクタを動かすことによって動画の作文を作成することを支援する.子供が積極的に「もう」「まだ」を考えることができるように,キャラクタの移動前,移動後の周囲の状況によって,システムは文を出力する. このシステムを小学校5年-中学校1年生を中心に実験を行った.実験の結果,学年が上がるにつれて,「もう」よりは「まだ」を使う傾向が見られることがわかった.新聞データ1年分を形態素解析して得られた結果から,成人が作成した新聞においては圧倒的に「まだ」がよく使われることがわかった. これらの結果から二つの時間的な概念に関する成長モデルが考えられる.一つは,「もう」「まだ」の対立を完了・未完了の対立と考えるものである.これに従えば,人間は概念的な成長に伴って,未完了の表現を好むようになる.もう一つのモデルは,「もう」「まだ」の対立を肯定感・否定感の対立と考える.「まだ」は「ない」と共起することから,否定的に使われることが多く,肯定文で使われる場合でも,「もう」に比べて否定感が強く残っている.この意味で,人間は成長とともに否定感の強い表現を好むようになると考えられる.また,本研究に関連して,形態素解析の精度を向上する研究も行った. 今年度の研究では,アスペクトに関する側面を明らかにすることを目指した.今後の課題としては,他の副詞を用いた実験を行い,時間的な成長に関する様々な側面を明らかにすることと,言語を越えた普遍性を明らかにするために,外国人の子供に対して同様の実験を行うことがあげられる.
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