研究概要 |
日本語の照応表現である「自分」と「自分自身」の獲得、特に、局所束縛性と長距離束縛性の獲得について研究をおこなった。実験の結果、「自分」の長距離束縛の獲得の方が遅れるという結果が出た。この結果に沿って日本話の照応表現である「自分」と「自分自身」における長距離束縛と局所束縛の獲得のメカニズムについて考察を試みたい。統率束縛理論では、名詞句は[a]と[p]の2つの素性によって分類されている。[^+a,-p]的な素性を持つものは英語のhimselfのような照応的な名詞句であり、束縛原理(A)にしたがう。また、[-a,^+p]的なものは代名詞のhimのようなものであり、束縛原理(B)にしたがう。しかしながら、この分類に則ると「自分」に該当する項目がないことが分かる。なぜならば、「自分」は局所性も反局所性も示さないにも関わらず、必ず束縛されなければならないからである。 この問題解決のために、中村(1996)は「自分」に素性[^+b]を付与することを提案している。この素性を持つものは、文内部で束縛されなければならないという制約のみを持つことになる。束縛形式に[a]、[p]、[b]の3つの素性を仮定する。[^+a]の制約は「その統率範疇内で束縛されなければならない」であり、[^+b]の制約は「束縛されなければならない」である。[^+a]は[^+b]の部分集合をなしていることが分かる。局所束縛の方が容易である事実から、幼児はまず、そのふるまいから考えて「自分」と「自分自身」に対し束縛原理(A)を適用する。ところが言語経験に照らし合わせて、「自分自身」は最初に付与したデフォールト値[^+a]のままでよいが「自分」は長距離束縛も認めることに気づき、「自分」に付与していた素性[^+a]を[^+b]に変更する。この変更は肯定証拠のみによって実行され得る。
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