本研究は、日本語を母語とする幼児の心内辞書表示における音韻単位(音節とモーラ)及び音韻単位と文字の獲得の関係を明らかにする実証的研究を行い、心内辞書表示の音韻単位に関する普遍性と個別性を論じた。 本研究では日本語話者の幼児が心内辞書の語彙表示をする際に音節とモーラのいずれの単位によっているかを明らかにする実験を行った。文字の獲得が行われていない幼児に焦点を当て、従来の研究では明らかにされなかったモーラと文字の関係を論じた。 実験の言語材料は、撥音、促音、長音の3つの特殊拍を含み、幼児にとり既知と未知の日本語の単語を用いた。実験方法は、タッピング。40語からなる単語のリストを一語ずつ読み上げ、幼児がタッピングをする様子をビデオカメラで撮影した。被験者は保育園園児38名。年齢は4.8才から6.3才。平均5.3才。国立国語研究所の文字読み取り調査票を用いて幼児の文字読み取り能カの調査を実施した。実験者が40語の単語を一語ずつ読み上げ、各単語に対してタッピングをさせた。撥音、促音、長音を含む音節を1つとして叩いた場合を音節、2つとして叩いた場合をモーラとした。 幼児は撥音の文字が読めてちモーラを選択するとは限らず、全体としては音節を選択する可能性が高く、促音と長音は、文字の読み取り能力とは無関係に音節を選択する可能性が高いことが明らかになった。既知語、未知語に無関係に同一の結果が得られた。この結果は、2つことを示唆していると思われる。1つ目は、個々のかな文字が読めてもモーラの選択が行われるわけではない。かな文字の獲得は個々の文字ではなく、文レベルの認識が重要と思われる。2つ目は、かな文字が読めない幼児は、モーラではなく、音節の音韻単位を選択する可能性が高い。しかし、この結果は心内辞書におけるモーラ表示の可能性を否定するものではなく、この点は今後の研究で明らかにする。
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