就学前の言語発達に関するデータベースを作成することを目的に、1人の女児の2歳から6歳の誕生日における1日観察を実施した。子どもの言語獲得は、その子どもの日常での経験内容を検討し、そこでの言語的インプットの量と質を押さえ、他者との相互作用の中で生ずる子どもの言語をみていくことが必要である。既に実施した5歳までの観察に加え、6歳の時点での家庭での観察の実施、およびそのビデオ録画資料の文字データへの転記を行なった。その中から、特に感覚・感情語に焦点を当てて検討を行なった。語彙獲得はその語の特性に基づいた固有の獲得がありうると考えられる。事物名称や動作に関する獲得の研究はいくつかあるが、感覚・感情語についての資料は必ずしも多くはない。また、これらの語は知覚的対象指示によるのではなく、文脈に依存する傾向が強いと考えられる語である。そこで、これらの語を含む相互作用を観察記録から抽出し、その年齢における変化と語のタイプにおける相違をみた。特に、食事を含むルーティン的場面でのデータについて、2歳から5歳までの検討を行なった。 この結果、これらの語を含む相互作用は年齢によって異なり、初期には親の入力語と子どもの使用語には緊密な関連がみられるものの、特に4歳では親の入力語に依存しない子ども独自の使用が多くなることが示された。また、初期には子どもの状態を示す何らかのサインに対する言語化が多くみられたが、徐々に親からの推論と推論内容の確認へと移行する中でこれらの語が用いられることが示された。このことから、感覚・感情語の獲得においては、親子の日常的相互作用のいくつかのパターンが重要な役割を果たしていることが示唆された。これらのパターンを整理し、獲得に関与する相互作用のパターンと年齢変化、およびこれらが事例を超えて普遍化できるものであるかどうかを確認していくことが今後の課題となる。
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