助詞の読み書きの認識が読み書きに与える影響を検討するため、研究1では、かな「は」「へ」の読みの発達に関わる要因の検討を目的とし、年長児36人、年中児47名を対象に、読字課題、「は」「へ」を含む単語・文の読み課題、助詞と自立語の異動判断抽出課題、自立語の類推課題の4種類の課題を個人面接調査によって実施した。その結果、読みわけの発達の規定因が、文字読みの熟達と付属語としての助詞の意識であることが示された。また研究2では、「は」「へ」の読みと書きの関連性の検討を目的とし、横断研究55名、7ヶ月の間隔をあけて2回の縦断研究を27名に実施した。その結果、書きのパターンとして正しく書き分ける以外に、発音通りに書く、助詞は正しく書くが自立語へ過剰般化する、先行の自立語の綴りの影響を受けてゆらぎがみられる等のパタンがみられた。読み分けルールは習得できても書きにそのルールはすぐに適用されず、音を書き表すパタンにとどまる者が多く、変化は見られにくいことが明らかとなった。この2研究と筆者の一連の研究から、表記の高次ルール学習としての「は」「へ」の読み分けについて、次の5点を明らかにした。第1に、日本語の助詞「は」「へ」の読みでも、英語の綴り時と類似の4段階、(1)清音としての読み方ですべてを読む段階、(2)読み分けルールを自立語にも般化する段階、(3)読み分けにゆらぎがみられる段階、(4)助詞のみに読み分けを限定して読める段階が存在すること、第2に(2)の段階でも文脈や語の熟知度が影響を与えること、第3にこの4段階は「は」「へ」で同時に生じるわけではなく個々のルールとして学習されること、第4に読み分けの発達の規定囚は加齢や一般的な認知発達ではなく、様々な読字の発達と助詞の意識の発達であること、第5に読みと書きでは習得にずれがみられ、知識として読み分けルールを習得しても初期の書きにはそのルールが適用されないことである。
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