昨年度に引き続き、(1)日本語の照応形「自分」の束縛条件の習得に関する研究と、(2)日本語のverbal-noun構文とそれに関連した構文の習得に関する研究を行なった。 (1):新しい実験を実施した。実験にはコントロール項目の他に、次の7種類の疑問文と絵のペアを用いた。 構成素統御条件(CC)テスト AF1x2(試行): 質問:[AのB]は[自分のC]をVしてるかな? 絵: 自分=A AF2x2: 質問:Aは[BのC]で[自分のD]をVしてるかな? 絵: 自分=B 主語指向性(SO)テスト BTx4: 質問:AはBに[自分のC]をVしてるかな? 絵: 自分=A BFx4: 質問:AはBに[自分のC]をvしてるかな? 絵: 自分=B 長距離束縛特性(LD)テスト CM1x4: 質問:Aは[Bが[自分のC]をVしてると]思ってるかな? 絵: 自分=A CM2x4: 質問:Aは[Bが[自分のC]をVしてるの]を見てるかな? 絵: 自分=A 長距離wh-疑問文テスト WHx4: 質問:Aは[Bが何をVていると]思ってるかな? 5・6才児32人を対象に実験を行なったところ、実験を完了した被験者18人中17人がコントロールテストとCCテストに100%正解した。これら17人のうち、SOテストとLDテスト両方に合格したもの2人、SOテストのみ合格=4人、LDテストのみ合格=2人、両テスト不合格=9人であった(合格基準=8間中7間正解)。LDテスト文の主動詞の違い(「思う」vs.「見る」)による反応差は見られなかった。この実験結果は、「自分」の主語指向性と長距離束縛特性の習得順序が一定でないことを示唆するが、これはこれまでに提案された日本語の照応形の分析では予測されないパターンである。実験方法に問題がなかったかどうかを含めて、今後検討をすすめたい。 (2):引き続き、問題の諸構文に関して大人の文法の詳細な分析を行なった。
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