研究概要 |
アバクチ洞穴遺跡出土弥生時代幼児人骨の形態学的検討を進めるうえで、新たに1997年に宮城県鳴瀬町里浜貝塚から出土した弥生時代幼児人骨4体を加えて分析を行った。 歯については、乳歯形態の計測・観察を実施した。程度の差はあるものの,計測値に関しては里浜の4体とも渡来系弥生人に近い値を示した。非計測的形質に関しては,いわゆるSinodontに特徴的とされるシャベル状前歯はアバクチ洞穴幼児人骨以上に深く,また1個体について下顎第二乳臼歯の遠心根二分が観察された。縄文集団に高い頻度でみられる下顎第二乳臼歯の第六咬頭は4体中3体では観察されなかった。里浜貝塚の幼児個体は,アバクチ洞穴の幼児個体以上に渡来系弥生人に近いといえる。この結果は日本人類学会第52回大会(札幌学院大,1998年9月)において発表した。 四肢骨に関しては、これらの幼児人骨に縄文的な要素がみられるか検討した。まず、縄文時代人と現代人の胎児において、鎖骨上腕骨示数、撓骨上腕示数、脛骨大腿骨示数を求めた。いずれも成人と同様に縄文の平均値は現代人のものよりも高いことが確認された。次に15才未満の未成人において縄文、弥生、歴史時代と現代人についてこの3示数を求めた。例数が少ないながらも撓骨上腕示数、脛骨大腿骨示数において、アバクチ、里浜2、3号人骨の数値が比較的低いことが判明した。四肢骨のプロポーションからアバクチ、里浜の幼児人骨が縄文的だとは判断できない。 以上の成果を国際シンポジウムRecent Progress in the Studies of the Origins of the Japanese(国際日本文化研究センター、1999年2月)において、Infant Skeletal Remains of Yayoi Period from Tohoku Districtとして発表した。
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