昨年度に実地した北海道出土人骨資料(縄文時代および弥生時代)の分析に引き続き、今年度は、東北大学医学部解剖学第1講座および東京大学総合研究博物館より試料提供を受けた弥生時代人骨および縄文時代人骨を中心に分析を進めた。分析した弥生時代遺跡と個体数は次のとおりである。大境(4)、瓜郷(1)、岩津保(5)、安房神社(5)、大浦山(5)、アバクチ洞窟(1)、星浜(3)。 これまでに報告されている縄文時代集団では、復元された食性の大部分はC3植物と海産物を結んだ直線上に分布していたのに対し、今回分析した弥生時代集団では遺跡間のバラッキが大きく、直線的な分布はしないことが示された。一方、大浦山と安房神社の集団については、集団内において炭素同位体と1窒素同位体に有意な相関関係が認められた。これはタンパク質が主に2種類の食物群に由来することを意味している。それぞれの回帰直線を検討すると、通常のC3植物よりも高い窒素を有する植物がタンパク質源として重要だった可能性が考えられる。この傾向は縄文時代集団の回帰直線とは明らかに異なる傾向である。水稲では窒素同位体比が高くなるとの報告もあり、この2集団については主なタンパク質源が水稲と海産物だった可能性がある。過去の水稲栽培における窒素循環に関する検討が必要であるが、今後の結果によっては、弥生時代のコメの食生活における役割が従来指摘されていたよりも重要だったと示唆できる可能性がある。 微量元素含有量については、縄文時代および続縄文時代、弥生時代の試料について、動物骨および人骨に関して比較したが、続成作用の影響が大きく明瞭な傾向は得られていない。今後、人骨のみによる続成作用の評価方法を検討する必要がある。
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