本研究では、グルーオンの幾何学的配位(インスタントン)と、互いにフレーヴァー1重項に組んでいる軽いクォークとの結合を考慮した結果、正負パリティのバリオン単体系の励起状態と2核子系の性質を同時に記述できるようにしたクォーク模型を、ストレンジネスを含む2バリオン系に拡張し、その性質を調べた。2バリオン間の相互作用は、クォーククラスター模型を用いて求め、特に対称・反対称スピン軌道力と、新たに導入したフレーヴァー1重項に特異的な相互作用の影響について詳しく調べた。 核子-ハイペロン系、2ハイペロン系は、ストレンジネスを含み、アイソスピンが同じために一般にスピン3重項と1重項の状態が混合する。この混合を起こすバリオン間相互作用は反対称なスピン軌道力として表せ、ヴェクトル中間子のテンソル結合から現れる項、及び1グルーオン交換のクォークの対称スピン軌道力から現れる項が重要であると報告されている。これまでの研究によって扱われてきた、それらのグルーオン交換や中間子交換等から生ずる相互作用を用いると、この反対称スピン軌道力のチャネル依存性は、フレーヴァーSU(3)対称性によって決定されてしまう事がわかっているが、この研究では、新たに導入したインスタントンの効果は他の項とは異なるチャネル依存性を示すことを、クォーク6体系の波動関数を用いて明らかにした。更に、より現実的な波動関数を用いて、その違いが実際にラムダ粒子-核子散乱に現れることを示し、ラムダハイパー核のスピン軌道力の性質にも影響することを示唆した。 また、より重いチャームクォークを含む系についても論じ、このインスタントンの効果を導入することで、実験的に得られるチャームを含むラムダ粒子の励起状態の質量差を導出できることを示した。
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