研究概要 |
Zr基およびPd基金属ガラスは,100Kにも及ぶ広い過冷却液体領域を持っている。この新しいタイプのランダム構造を有する金属ガラスの構造緩和,ガラス遷移,結晶化過程は原子の拡散と密接に関係しているので,拡散の知識は金属ガラスの諸物性を理解する上できわめて重要である。しかしながら,原子の拡散に関する研究はきわめて少ないのが現状である。本研究では,Zr基およびPd基金属ガラスのアモルファス領域および過冷却液体領域における自己拡散係数を測定し,その拡散機構を明らかにすることを目的とした。 Zr_<55>Cu_<25>Al_<10>Ni_<10>金属ガラス中のNiの拡散係数およびPd_<40>Cu_<30>Ni_<10>P_<20>金属ガラス中のPdとNiの拡散係数を測定した結果,それらの温度依存性は1つのアレニウスの式で表わせないことがわかった。つまり,アモルファス領域ではアレニウスの直線性が存在するが,ガラス遷移温度を境にして過冷却液体領域における拡散係数は低温のアモルファス中の拡散係数の温度依存性の高温側への外挿値よりも大きくなる。このようなアレニウスプロットからの曲がりは過冷却液体領域での原子の拡散が集団運動によって起こっていると考えることによって説明した。我々は過冷却液体領域では,原子の配置のエントロピーと共にエンタルピーにも温度依存性があると考えてモデルを発展させた。その結果,集団運動に関係する原子数はエンタルピーの増大と共に減少することが明らかになった。
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