研究概要 |
前年度までに、架橋化合物に組み込まれたオキシコープ系の、陰イオン促進転位反応を開発し、[5-5]、[5-6]、[5-8]縮環骨格形成の選択性向上と、転位反応の活性化基で、後の変換が容易なものの開発を進めた。平成10年度には、この手法の実用性を明らかにする目的で、天然物合成への応用を試みた。また、架橋化合物の芳香族オキシコープ転位を検討し、ベンゼン環自体が組み込まれたオキシコープ転位を見出した。 1. (±)-Junicedranolの全合成: Junicedranolは特異な架橋三環性セスキテルペンである。上記の[5-6]縮環骨格形成法を組み込み、この化合物の全合成に成功した。この際、得られた縮環骨格はシクロペンタジエン誘導体であった。この化合物とケテン等価体とのDiels-Alder反応における面選択性と位置選択性は、Junicedranol合成に適したものであった。[1,3]転位反応を活性化し、後にケトンの再生が容易で実用的な基として、4,5-ジメチルチアゾリルを開発した。 2. 架橋系の芳香族オキシコープ転位反応: ベンゼン環自体がオキシコープ転位のπ骨格となっている場合、転位生成物の収率が極めて低い。ナフタレンやフランの例をさして、芳香族オキシコープ転位反応と呼んでいる。しかるに、橋頭位にメトキシ基をもつ2-フェニルビシクロ[2.2.2]オクト5-エン-2-オールを水素化カリウムとTHF中で加熱還流すると、オキシコーブ転位が起こり、さらに脱水素された生成物が得られた。クラウンエーテルを添加すると転位は容易に進行した。橋頭位の置換基効果、ベンゼン環上の置換基効果について、合成的な見地からの知見を得た。ナフタレン、フェナントレン、ピレン等も転位反応に使用でき、アルゴン気流下の反応とアルゴンバルーンを用いた反応を使い分けることで、転位生成物と、その脱水素体を作り分けることができた
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