研究概要 |
近年、金属のへテロ原子への配位機能を駆使する立体制御法が種々開発されてきており、それぞれの金属特有の配位状態を活用する求核試薬のカルボニルあるいはイミンへの立体選択的付加反応は分子構築上欠くことのできない手法となっている。本研究ではメソ酒石酸から誘導した光学活性アルデヒドおよびイミンへの求核試薬の付加反応において、用いる金属種を適切に選択することによりsyn-およびanti-付加体をそれぞれ高い選択性で作り分けられることを見いだした。出発物質である光学活性アルデヒドは、メソ酒石酸からリパーゼPSによる非対称化を経て10段階、通算収率36%、>99%eeで得られる(R,R)-体、あるいは同様にメソ酒石酸から9段階、通算収率71%、>99%eeで得られる(S,S)-体およびそれらをイミノ化して得られるイミンを用いた。このようにして合成したアルデヒドあるいはイミンへの求核付加反応ではそれぞれの反応系で求核試薬として金属アセチリド、金属ジチアニド、トリメチルシリルシアニド、およびべンジルオキシメチル金属試薬を用い、反応条件を適切に選択することにより目的の付加体を高い選択性で得ることができた。これらの付加体を適切に官能基変換することにより細胞表層の情報伝達に重要な役割を担っているテトラヒドロキシ-LCB、海洋性天然物であるカリクリンAのC_<33>-C_<37>部位、地衣類から単離されたマクロリドである(+)-アスピシリンの合成へと応用した。 このように光学活性アルデヒドおよびイミンへの求核試薬の付加反応において、ヘテロ原子とカルボニル基に金属が配位してキレートを形成し付加反応が進行するキレーションコントロールとそのようなキレートの形成のおこらないノンキレーションコントロールの二つの概念に基づく立体化学の制御法を用い、金属種を適切に選択することにより両ジアステレオマーの作り分けが容易にできることを明らかにした。このような立体制御により得られた付加体は適切に官能基変換することにより生理活性化合物の立体選択的合成に応用することができた。
|