研究概要 |
複雑な構造を持つ抗腫瘍性マクロリドAcutiphycinの合成を「高次構造天然物合成」の目標として研究を展開してきた.我々の開発したキラルオキサザボロリジノン助触媒不斉アルドール反応を繰り返し利用することで鎖式構造をエナンチオ選択的に構築することができれば,それぞれのステップの不斉アルドール反応の有効性を確認することだけでなく,全行程におけるステップ数の大幅な短縮を可能にすることとなる.むしろ我々はその後者に力点をおいて研究を展開させた.スミス教授によるエレガントではあるが古典的手法による合成では,約60ステップの反応が使用されていた. さて,我々は当初の計画どうり同じキラルオキサザボロリジノン助触媒不斉アルドール反応をシリル求核剤を変えて5回繰り返し,2回の選択的なオレフイン合成を伴って,期待どうりの選択性を達成させ短行程でAcutiphycinのセコ酸誘導体の合成を完成させることができた.全過程の選択性は各ステップで非常に高い.各ステップでマイナー異性体が存在する場合にも,それらは容易にフラッシュカラムクロマトグラフィーで取り除くことができた.全過程において,選択性を回復するための任意性のある再結晶などの操作は含まれていない.しかしながら,この研究の過程で問題がなかったわけではない.むしろ乗り越えなければならない重要な障壁があった.それはC10のメチル基の立体化学に関するものである.この問題に多くの時間を費やし,我々のキラルオキサザボロリジノン助触媒不斉アルドール反応でのEnantioselective Acyclic Stereoselection under Promoter Controlにおける選択性に関する限界の一部をも明確にすることができた.
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