研究概要 |
天然の抗体と同様に水溶液中で基質を正確に認識する人工レセプターの合成は、ホスト・ゲスト化学に携わる研究者にとって究極の目標である。本年度は(1)高分子効果による水溶液中での水素結合形成の促進、ならびに(2)モレキュラーインプリント法によるホスト分子相互の分子配向の制御、を追究した。 (1) 高分子効果による水溶液中での水素結合形成の促進 本研究者は、既にポリ(2-ビニル-4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン)(PVDAT)が水溶液中で、相補的な水素結合によりチミンとウラシルを選択的に認識することを見出している。しかしPVDATは水に不溶の高分子であり、固-液界面という特殊な環境が水中での水素結合に寄与していることも予想された。そこで2-ビニル-4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン(VDAT)をアクリルアミドと共重合させて水に可溶化し、高分子場が均一水溶液中でも相補的な水素結合形成に有効に機能するか検討した。その結果、上記共重合体は、均一水溶液においても相補的な水素結合を形成してチミンを選択的に認識することが判明した。以上より、高分子場が均一水溶液中でも水素結合形成に有効なことが明らかとなった。 (2) モレキュラーインプリント法によるホスト分子相互の分子配向の制御 本研究者は、シクロデキストリン(CyD)を鋳型分子存在下でDMSO中でジイソシアナート架橋することで、水中で基質を選択的に認識する人工レセプターが合成であることを明らかにしている。本年度は、この方法で形成される認識部位の構造を物理化学的な手段を用いて詳細に分析した。その結果、コレステロールを鋳型分子に用いた場合、2分子のβ-CyDがジイソシアナートで架橋された構造を持つ認識部位が高分子内に形成されていることを明らかにした。
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