研究概要 |
本研究は,チオフェン環が縮環した5-シラスピロ[4.4]ノナン誘導体である光学活性スピロシランを新規キラル構成単位として用いたキラルらせん高分子の開発を主目的とする.光学活性スピロシラン骨格の導入により,生成する高分子は絶対配置が一義的に制御された堅固ならせん構造をとることが予想される.本年度の成果は以下のようにまとめられる. すでにスピロシランの分子内ヒドロシリル化による触媒的不斉合成,および得られた光学活性体を用いたD_4対称キラルモレキュラースクエァーの合成を前年度までに達成している.本年度は,本研究の一つの発展的展開として,スピロシランの新規キラル直交型構成素子としての有用性を示すことを目的に,自己集合によるキラルナノ組織体の構築について検討を行った.自己集合を誘起する官能基としては,いくつかのタイプの官能基が考えられるが,ここでは最も単純なカルボキシル基を用いることにした.スピロシランのsec-BuLiを用いたジリチオ化,それに続く炭酸ガスとの反応によりスピロシランジカルボン酸を得た.(S)_<Si>-スピロシランジカルボン酸の単結晶についてX線結晶構造解析を行った.結晶構造において,カルボキシル基は分子間で水素結合を介して二量化しており,また,スピロシラン骨格のチオフェン環平面とカルボキシル基のC-O-Oのなす面とはほぼ同一平面上にある.この結果,(S)_<Si>-スピロシランジカルボン酸は結晶中で4_1らせん一次元ネットワークを形成している.この容易ならせん形成は他のC_2対称軸不斉スピロ化合物の場合にはみられない特異な現象であり,その原因についても考察を行った.
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