研究概要 |
ニトリルヒドラターゼ(NHase)は、システインスルフェン酸、システインスルフィン酸という翻訳後修飾を受けたCys残基を配位子とする新規な非ヘム鉄センターを活性中心とする。今年度は、以下の研究を行なった。(a)活性型酵素のX線結晶構造解析 不活性型酵素の結晶構造解析に用いた結晶は、光照射を行っても容易には閏を放出して活性化しなかった。そこで、他のグループの条件に従い、PEGを沈殿剤として活性型酵素の結晶化を行った。その結果、22%PEG存在下で良質な結晶(結晶系C2,a=113.92,b=60.22,c=81.62)を得られた。この結晶では1.5Åまでの反射を得ることが出来た。現在、分子置換法を行い、データの解析を行っている。(b)翻訳後修飾の生成機構解析 大腸菌で発現させた翻訳後修飾をもたないαサブユニットから再構成する系を確立した。再構成をAr雰囲気下で行なうと生成物は活性を示さず、大気にさらすと次第に活性を回復した。大気にさらす前後の複合体を精製し、質量分析を行なったところ、酵素活性の回復に伴ってαCys112が特異的にシステインスルフィン酸に酸化されることが明らかになった。 (c)部位特異的突然変異体の解析 不活性型の結晶構造を元に、光応答及び触媒反応に重要と思われるアミノ酸の置換体を作製し、置換の影響を検討した。今年度はαCys112,αCys114の修飾部位の酸素原子に水素結合している2つのArg残基(βArg56,βArg141)をGlu.Lys.Tyrに置換した変異体を作製した。Lys置換体のみ野生型の1-2%程度の活性を示した。また、βArg56Lys以外の変異体では野生型に見られるS→Feの電荷異動に由来する710nmの吸収が、650nmにシフトしていた。以上の結果は、βArg56,βArg141はいずれも非ヘム鉄の電子状態に重要な寄与をしており、触媒活性に必須であることを示している。 (d)反応の遅い基質の検索 時分割結晶構造解析に有利な基質検索し、isobutyronitrileはKi=5x10-6Mで競争阻害剤として作用し酵素と安定な複合体を形成することを見い出した。現在、結合様式の解析を行っている。
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