研究概要 |
本研究ではナノメートル領域の細孔と固体酸性を合わせ持つメソ多孔体アルミノシリケートが,酸性反応場として有用であることを明らかにするために,Diels-Alder反応に焦点を当てた.まず,固体酸性を示すナノ空間触媒は,テトラエトキシシランとトリイソプロポキシアルミニウムの混合物を出発物質,第一級アミンを鋳型剤とするゾル-ゲル法により,ハニカム骨格アルミノシリケート(AI-H MS)を調製した.モデルDiels-Alder反応として,反応性が比較的低く,副反応であるジエン,ジエノフィル自身の重合反応が起こりやすい,シクロペンタジエンとアクリル酸メチルの組合せを選んだ.均一系ルイス酸であるBF_3・OEt_2を用いると,生成物の立体選択性は高いものの,副反応の重合反応が優先し,Diels-Alder付加物の収率は低かった.これに対して,本研究で開発したAl-HMS触媒は,反応速度が速く且つDiels-Alder付加物の収率が高く,重合副生物が少なく,更に立体選択性も高いという理想的な触媒性能を示すことがわかった.Al-HMSに含まれるAlの含有量が多いほど触媒活性が高く,Si/Al比が7の時最大収率を与えた.しかしさらにAl含有量を増やすと,ハニカム構造がくずれて,逆に収率が低下した.また,鋳型剤のアルキル鎖が長いほど活性は向上し,ヘキサデシルアミンを用いて合成されたAl-HMSが最高活性を示した.ハニカム構造のAl-HMSがDiels-Alder反応用触媒として優れている理由は,細孔径が約25オングストロームと大きく,反応基質が細孔内を自由に拡散できること,固体酸性発現の要因となるアルミニウムが高分散でしかも高濃度で組み込まれていること,および細孔空間が生み出す極性環境により,極性を帯びたDiels-Alder反応遷移状態が安定化されること,などの相乗効果であると考えられる.
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