研究概要 |
本研究は、炭素結合生成を伴う有機金属反応の分子軌道法や密度汎関数法による計算を行い、その化学反応の特徴を支配する電子的因子を明らかにすることによって、分子設計や反応設計の基礎となる情報を得ることを目的としている。そこで、1)昨年度の延長として、Ru錯体触媒によるオレフィンへの芳香族ケトンのCH結合付加の触媒サイクルの反応機構、2)Sm錯体によるアルケンのヒドロボリル化のモデル触媒サイクル、3)鉄ホスフェニウムカチオン錯体(CpFe(XH_2R)L;X=C,Si,Sn,L=ホスフェニウムカチオン)での、中心Fe原子からホスフェニウム配位子のPへのメチル基(X=C、R=H)シリル基(X=Si.R=H)、スタニル基(X=Sn,R=H)の1,2転位、および、XからPへのメチル基の1,3転位(R=CH_3)について検討した。1)では、触媒サイクルの律速段階は選択的オルトCH結合活性化ステップではなく、最後のCC結合の還元的脱離であることを明らかにするとともに、CH結合活性化で見いだされたと同様な興味ある構造の中間体を見いだし、その役割を明らかにした。2)では、モデルSm錯体触媒Cp_2Smllおよびモデル試薬としてエチレンとI-IB(OH)_2を用いてポテンシャル面と電子状態の検討を行い、Sm原子の酸素親和性の触媒サイクルでの役割を明らかにした。3)については、1,2転位ではメチル基転移が最も有利であり、1,3メチル基転位ではX=Snの活性化エネルギーが最も低く、X=Cの場合が最も大きい。これらの傾向は、反応において生成する結合および切断される結合の強弱によって理解することができる。
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