研究概要 |
カ ルコゲン原子を分子間で多数集積させることによって創出される反応場について検討することを目的として、分子結晶の形成によってカルコゲン原子を集積し、それによって創出される反応場について検討を行った。我々はこれまで既にl,l,2,2-Tetrakis(4-hydroxyphenyl)ethane(TEP)が良好な分子結晶形成能を有することを見出しているので、本研究でもこのTEPによる分子結晶形成能を用いてスルホキシド類を包接した新しい分子結晶の形成を検討した。 TEPは拡散型の水酸基を有することで特徴づけられる新しいタイプの分子結晶性化合物である。TEPは酢酸エチル中、ジメチルスルホキシド(DMSO)をはじめとするジアルキルスルホキシドそしてジフェニルスルホキシド(DPSO)をはじめとするジアリールスルホキシド及び関連のスルホキシド類を包接し分子結晶を形成した。分子結晶形成の典型例としてTEP・2DMSOおよびTEP・2DPSOの結晶解析によって示された。この結果は多数の酸素原子および硫黄原子が分子間で集積した新たな結晶場が形成されたことを意味するもので、カルコゲン原子によるインターエレメント結合形成の新しい概念を与えるものとして注目される。ところで、得られた分子結晶は極めて興味深い特徴を示すことがわかった。分子結晶TEP・2DMSOにはスルホキシド基の酸素原子とTEPの二つの遊離の水酸基の水素原子の間に水素結合が存在し、さらにはDMSOのメチル基とTEPのベンゼン環の間にCH-π相互作用が存在することが明らかになった。一方分子結晶TEP・2DPSOにはDPSOのスルホキシド基の酸素原子とTEPの遊離の水酸基の水素原子との間に水素結合が存在することはもちろんであるが、この他TEPのベンゼン環水素とDPSOのπ電子の間にCH-π相互作用が、さらにはOH-π相互作用も存在することがわかった。この結果はTEPが二つのスルホキシド類を認識して分子結晶を形成したことを意味するもので極めて興味深い結果である。これらの結果に基づいて次にTEPによるDMSOおよびDPSOに対する選択的分子結晶形成について検討を行った。その結果極めて興味深い選択性が観察された。すなわち、DMSOおよびDPSOの混合物をベンゼン、四塩化炭素およびアセトンなどの水素受容性溶媒中でTEPによる分子結晶形成を試みたところ、DMSOが優先的に包接されることがわかった。一方アルコールなどの水素供与性溶媒中で分子結晶形成を試みたところDPSOのみが特異的に包接されることがわかった。これらの結果はTEPがゲスト分子に対する認識能を有することのみならず、用いる溶媒によってもその分子結晶形成能を変化させ得ることを示している。以上のように分子間でカルコゲン原子を集積する一つの方法としてTEPの水酸基を利用して、分子結晶を形成することによる新しい方法を提案することが出来た。現在このようにして得られたカルコゲン原子が多数集積した分子結晶を用いる反応場について検討を進めている。
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