研究概要 |
セレネン酸は、酸化状態の最も低いセレンの酸素酸であり、新しいセレン化学種としてのみならず、ヒドロペルオキシド(ROOH)の重カルコゲン原子類縁体としても興味深い。さらに、セレネン酸は生体内での過酸化水素の無毒化を触媒するグルタチオンペルオキシダーゼの触媒サイクルの重要な反応中間体としても仮定されている。しかしながら、極めて高い反応性を持ち、これまで単離された例がない。本研究においては、セレネン酸官能基(SeOH)をボウル型置換基(カリックス[6]アレーン骨格および全炭素骨格ボウル型分子、4-t-ブチル-2,6-ビス[(2,2^<11>,6,6^<11>-テトラメチル-m-テルフェニル-2^1-イル)メチル]フェニル基(Bmt基と略記))の底に共有結合で固定することにより、セレネン酸の安定化を試みた。カリックス[6]アレーン骨格を持つセレネン酸は、対応するプチルセレニドをまず合成し、その酸化、熱分解により合成した。Bmt基を持つセレネン酸は、対応するセレノールの酸化により合成した。これらは安定なセレネン酸の合成の最初の例である。これらはいずれもセレネン酸に期待される低磁場領域における^<77>Se-NMR(約1100ppm)を示した。また、カリックス[6]アレーン骨格を持つセレネン酸はX線結晶解析によりその構造を決定した。Bmt基を持つセレネン酸を用いることにより、グルタチオンペルオキシダーゼの触媒サイクルにおいて仮定されている4つの過程の全てを初めて実験的に示すことができた。
|