研究概要 |
チアザイン類(R^1R^2R^3S≡N)は硫黄と窒素の三重結合をもつ非常に珍しい化合物で、このような化合物の存在は一般にあまり認識されていない。我々はN-ハロスルフィルイミンから若干の有機チアザインの合成法を見いだしてきた。このうち最初に見出したS,S-ジフェニル-S-フルオロチアザインについては1965年にCliffordらが初めて合成したという報告があるが我々が合成したものとスペクトルデータが全く異なっていた。そこで我々が合成したものの構造が正しいことを確認するためにp-ニトロ誘導体を用いてX-線結晶構造解析を行った結果、結晶中の構造は硫黄を中心に歪んだテトラヘドラル構造をとっており、我々の化合物が間違いないことが分かった。さらにSN結合距離は1.441Åであり、S,S,S-トリフェニルチアザイン(1.462Å)やF_3SN(1.416Å)と同様かなり短く、三重結合性がかなりあることが分かった。 S-フルオロチアザインは酸でもアルカリでも触媒作用を受け対応するスルフォキシイミンを与える。そこでこの反応機構を速度論的に検討した結果、pHに依存して3種類の反応機構で進むことが分かった。反応は酸性領域からpH10くらいまでの範囲で一次速度式、pH10以上で2次速度式に従い、pH4以下やアルカリ条件下では付加脱利機構を支持する結果が得られたのに対してpH4-10でpH依存性がなく、いろいろな速度パラメーターを検討した結果、反応はチアジルカチオン中間体[R^1R^2S≡N]^+を通るS_N1型の機構で進行することが示唆された。このような中間体は大変珍しく、この中間体からさらに多くのチアザインの誘導体の合成が期待できる。そこでS,S-ジフェニル-N-ブロモスルフィルイミンからAgBF_4を用いて臭素を引き抜き、種々の求核剤と反応させたところ、N-ブロモスルフィルイミンと求核剤のみからでは今まで生成しなかったアミノチアザインやアルコキシチアザインが収率よく得られ、チアジルカチオンを経由するチアザインの新しい合成ルートを開くことができた。 S-フルオロチアザインを用いてさらに新規へテロ環化合物である2,2^1-ビフェニリレン-フェニルチアザインを合成し、X-線結晶構造解析により構造の確認を行った。
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