研究概要 |
Si-Si結合とπ電子系の軌道相互作用ならびに分子構造との関連に焦点を当てて以下の検討を行った。モノ(MS)、ジ(DS)、およびトリ(TS)シラニレン-オリゴチエニレン(mT)交互ポリマー薄膜の電気化学的挙動を電位走査法(CV)および分光学的手法で調べた。DS5T薄膜は0.3-0.8Vに可逆な酸化還元ピークを示す。掃引初期に膜表面が溶出するが2回目以降溶出は抑えられる。酸化波は低速の掃引で3段に分かれたのでその過程を解明した。1波目はポリマーの酸化と後続するSi-チエニルまたはSi-Si結合の開裂反応、膜表面の溶出に対応する。2,3波目は膜の電気化学ドープ/脱ドープに対応する。同時に溶出オリゴマー成分の再酸化により保護層が形成され、2回目以降安定したレドックスを示すようになる。DS4T、MS5T、TS5Tなども同様の挙動を示した。一方、ケイ素上にエトキシ基をもつMS5Tは最初から安定なドープ/脱ドープ過程のみを示した。マルチ掃引でも膜の分解は全く起こらず、対アニオンの出入りだけが観測された。 また2,2'-ビチオフェンの3,3'-位をケイ素ユニットで架橋したジチエノシロールおよびジチエノジシラシクロヘキサジエン骨格に着目しその合成を行った。UV吸収および発光スペクトル、CV測定、X線結晶構造解析を通じた検討からは、これらはその炭素類縁体と同程度のHOMO、かなり低いLUMO、および狭いHOMO-LUMOギャップを持つと考えられたので、モデル化合物について非経験的分子軌道計算を行ったところ予想と一致する結果が得られた。さらに、ジチエノシロール骨格およびチオフェン環を含むオリゴシラニレン交互ポリマーを合成した。これらのUV吸収は対応するチオフェンポリマーに比べて約30nm長波長側に見られるが、酸化電位は殆ど同じであり、ケイ素架橋によるLUMOの低下があることが分かった。塩化鉄ドープした時の電導度もジチエノシロール骨格を持つものの方が優れていた。
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