研究概要 |
ドデカボランは3中心2電子の構造がイコサヘドラル型に共役することで非常に安定化されたのホウ素クラスターであり,ホウ素12個と水素12個から構成される2価陰イオンである。その炭素置換アナログであるカルボランは,ホウ素2つが炭素に置き換えられた有板ホウ素化合物である。カルボランはドデカボランと異なり化合物自体が非イオン型であるため取扱いが容易である事に加え,有機部位をクラスターに結合させる際に手がかりとなる炭素原子がある。そのため患部へ多数のホウ素原子を集中させる必要のある中性子捕捉療法等に用いる化合物を設計/合成するのに適した構造のひとつと言える。こうした目的のため,カルボランと有機部位を結合する炭素-炭素結合生成反応の開発は重要であり,これまでの自身の成果を手がかりとして,新しいカルボランの化学反応を検討した。生理活性部位との結合を鑑みて,強塩基や強酸性条件を避け,遷移金属触媒を用いてできるだけ温和な反応条件を選ぶ事にした。この研究は現在も進行中である。 ところでカルボラン誘導体が中性である事は,合成上の有利性である反面,難水性が著しく投与時に困難を伴うという欠点にもなりうる。この問題を回避するためにカルボラン誘導体をニド型のイオン構造へ強制的に誘導する手法が取られているが,強塩基性かつ高温で処理する必要がある。今回私は炭素上に臭素原子を導入したカルボランが,室温で10分程度一級アミンと処理するとイオン型クラスターが容易に高収率で合成できることを新たに見出した。
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