研究概要 |
シス-エテンジチオレートのナトリウム塩を高希釈条件下でヨウ素を用いて酸化したところ,1,2,5,6-テトラチオシン1,ビシクロ三量体 2および環状四量体 3が得られた。また,メトキシカルボニル基を有するチタノセンジチオレン錯体を塩化スルフリルで酸化することにより,1,2-ジチエット 4, 1,2,5,6-テトラチオシン誘導体 5および16員環化合物6を得ることができた。生成物1,2,3,4,5の分子構造はX線結晶構造解析によって明らかにした。 テトラチオシン1はp-キシレン還流下でも安定であったが,アセトニトリル中では容易に二量化し16員環化合物3を与えた。ジチェット4は結晶状態では安定であったが,アセトニトリルあるいはクロロホルムなどの溶液中では環拡大が起こりテトラチオシン誘導体5および16員環化合物6を与えた。しかし,5はこれらの条件下では安定であり,1とは異なった挙動を示した。このことから,4は5を経由しないで6を生成することがわかった。テトラチオシン1のベンゼン溶液にパイレックスフィルターを通して光照射を行うと,2,3,6-トリチア-4-シクロへキセニルチオアルデヒドが反応性中間体として選択的に生成していることがわかった。1と求電子試薬であるジフェニルカルベンとの反応では,カルベンは1のアルケン部分とは反応せず,硫黄と求電子的に反応してイリドを中間体として生成した後転位した化合物を与えた。また,1と親電子試薬であるトリフェニルホスフィンおよびトリエチルアミンとの反応ではZ,Z,Z-,Z,Z,E-,Z,E,E-およびE,E,E-12員環化合物が生成した。これらの12員環化合物は他の反応では生成しない興味深い化合物であり,この反応の反応機構について考察を行った。
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