研究概要 |
カルボキシル基やスルホン酸基などの解離基を固定キャリヤーに持つ陽イオン交換膜が,無機および有機の陽イオンをそれらの濃度勾配に逆らって上り坂輸送により分離,濃縮し,またアミノ基を固定キャリヤーに持つ糖鎖分子集合体であるキトサン膜がハロゲン化物イオンを上り坂輸送することから,平成9年度は糖鎖分子集合体膜としてキトサン膜と四級化キトサン膜を用いて,生体模擬成分であるアミノ酸,有機酸,核酸塩基などの濃度勾配に逆らった上り坂輸送について検討し,アミノ酸/有機酸混合系,核酸塩基類の混合系における交差上り坂輸送による分離,濃縮について報告した。これらの上り坂輸送は,膜を介した左右両液のpH変化に著しく依存することが明らかになった。そこで,本年度はこの点をさらに明確にするため,四級化キトサン膜による核酸塩基類の上り坂輸送の機構について詳細に検討した。 四級化キトサン膜を介し,左右両液にウラシル濃度を等しくし,塩基性側の初期pHを13,酸性側の初期pHを1.0とすると,ウラシルは酸性側から塩基性側に濃度勾配に逆らって上り坂輸送された。一方,酸性側の初期pHを1.0で一定とし,塩基性側のpHを変化させた場合にもウラシルは酸性側から塩基性側に上り坂輸送された。ただし,塩基性側の初期pHの変化によって左右両液の酸性,塩基性の状態は異なっていた。これらの結果は,酸性側から塩基性側へのウラシルの上り坂輸送の機構に相違があることを暗示しており,四級化キトサン膜とウラシルの荷電状態の変化を考察し,静電化学的相互作用の違いから上り坂輸送を説明した。 シトシン,アデニン,グアニンの同様の実験では,シトシンは塩基性側から酸性側に,アデニンやグアニンでは輸送の初期にはシトシンと同じ方向に上り坂輸送されたが,ある時間後に上り坂輸送の方向が変わる珍しい輸送現象がみられた。
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