研究概要 |
我々の研究グループでは、マキシマム・エントロピー法(MEM)による精密結晶構造解析を用いて、温度変化等による構造変化を回折データからモデルフリーに実空間に可視化するシステムを構築し、相変態の機構解明の実験的手法の一つとして確立することを目標とした。そして、金属内包フラーレン、高圧下での強相関化合物の構造変化、マンガン酸化物の常磁性、反強磁性相変態に伴う軌道整列の直接観察を試みた。例えば、、マンガン酸化物の研究成果については、以下の通りである。 層状ペロフスカイト型マンガン酸化物であるNdSr_2Mn_2O_7は150K以下で層状な反強磁性磁気構造となる。この結晶中のMn^<3+>イオンは4つの3d電子を持ち,dε^3dγ^1の電子配置をとる。前者はt_<2g>軌道と呼ばれ後者はe_g軌道と呼ばれる。このe_g軌道が酸素の2p軌道と混成軌道を形成する。NdSr_2Mn_2O_7の反強磁性相においてe_g電子は,2次元的なdx^2-y^2軌道と1次元的なd3z^2-r^2軌道のうち,dx^2-y^2軌道を占有すると言われている。その結果150K以下でMn-Oの結合に異方性があらわれると考えられる。これまで,この系に関してスピン秩序は中性子磁気回折実験により直接観測されてきた。しかし,軌道電子に関しては直接的な観測はほとんどされてこなかった。本研究で、MEMによりNdSr_2Mn_2O_7の面内方向と面間方向でのMn-O間の混成軌道による電子密度分布を直接観測し,室温と低温において実際に軌道の異方性が存在する事を明らかにする事に成功した。
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