研究概要 |
金属間化合物における相分離では拡散の特異性,弾性的性質,結晶異方性,逆位相境界エネルギー,格子欠陥の構造,化学量論組成からのずれ,異相界面構造など不規則合金にはない多くの因子が関係し,複雑である.本研究では規則相中に不規則相が析出するNiAl-Cr系とNiAl-Co系に重点をおいて過飽和固溶体の構造と時効による相分離過程を透過電子顕微鏡を用いて解析した.まず,NiAl-Cr系において,時効によりβ-NiAl相中に球状のα-Cr相が析出する.時効初期段階においてα-Cr析出粒子は母相と整合性を保っているが,時効の進行とともに整合性は失われ,析出物は界面転位に囲まれる.母相の組成によらず,いずれの合金とも析出粒子半径の3乗と時効時間の間にはほぼ比例関係が成り立ち,β相中でのα-Cr析出粒子の粗大化はLSW理論で説明できる.また,析出粒子の粗大化速度は合金組成によって大きく異なっており,β相中のCr原子の拡散係数,α-Cr粒子の界面エネルギーが化学量論組成からのずれに強く依存していることを示唆している.本研究によりNiAl-Cr系におけるB2-NiAlの単相領域についての従来の報告はきわめて不正確であることが知られ,新たに相領域の一部を決定した.一方,NiAl-Co系において,673〜773K時効では時効初期段階で硬度が著しく増加する.電顕観察によれば,時効初期段階において微細かつ整合な析出物が形成され,析出物の周囲には整合ひずみ場が観察される.電子線回折パターンより,その析出相はhcp構造を有する準安定Co相(α')である.さらに時効を進めると析出相は母相と最も格子適合性の良い〈111〉方向に沿って成長する.β母相とα'析出相との結晶方位関係はBurgersの関係(110)_<B2>//(0001)_<hcp>,[-111]_<B2>//[11-20]_<hcp>である.高分解能電子顕微鏡観察により,析出相の内部構造や界面構造の解析を行った.時効のごく初期段階ではゾーンの形成が示唆された.
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