今年度は、超対称性を持つゲージ理論の量子論に係わる基本的な問題をまず考察した。具体的には、Lorentz共変に量子化した場合には、一般にゲージ固定により超対称性が破れることになる。このことは、超対称性の代数関係が変更を受けることを示している。他方、超対称性の応用においては、その代数関係とくにその中心拡大が重要になる。従って、量子化に伴うゲージ固定による人為的な対称性の破れを、物理的に意味のある量の中で如何に明確に分離するかという問題が重要になる。われわれは、いわゆるBRST対称性を使った定式化では、この問題は非常に明確に定式化できることを示した。 また、超対称性を持つ理論では、双対性の議論において二つの双対な理論において量子異常の一致という重要な要請がおかれる。とくにN=1超対称な理論における量子異常は非常に奇跡的に一致すると言われているが、その背後に何か統一的な描像とか機構が存在しないかを考察した。この考察において、より大きなゲージ群からある種の対称性の破れにより、二つの双対な理論が生じるという描像を描くと量子異常の一致が比較的組織的に理解できることを指摘した。しかし、この問題の本当の理解は将来に残されている。 最近、ゲージ理論の少し異なる定式化としての格子ゲージ理論において、フェルミ粒子とくにそのカイラルな性質の理解で大きな進歩が見られたが、この格子ゲージ理論の発展と著者が過去に提案していた連続理論でのカイラル対称性の扱いの関係を明確にした。適切な定式化を行えば、連続理論と格子理論がほとんど同等に扱うことができることがわかり、今後の発展が期待される。
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