overlap formalismによって記述されるDirac fermionは、局所的な作用をもち、そのDirac演算子はGinsparg-Wilson関係式をみたす。これにもとづいて、格子上で厳密なchiral symmetryが定式化できることが、最近、明らかになった。平成10年度は、この格子chiral対称性のもつ性質について次の研究を行った。 1. 格子chiral symmetryにともなうchiral anomalyは、fermion積分測度の変換Jacobianとして、得られる。Jacobianは、Dirac演算子によって直接あらわすことができる局所的な量であり、Dirac演算子のIndexを与える。我々は、このJacobianを弱結合展開によって評価し、局所的なanomalyが正しく得られることを示した。 2. 厳密なchiral symmetryに伴うaxial currentの具体的な構成法を明らかにした。 3. 作用のもつ厳密な格子chiral symmetryが、overlap formalismにおいて中心的な役割を果たすfermion hamil-tonian systemのもつ対称性と、直接、関係していることを明らかにした。 4. domain-wall fermionは、overlap formalismの基礎を与える。domain-wall fermionの低エネルギー有効作用を直接、導出することによって、domain-wall fermionの有効作用がもつchiral対称性とGinsparg-Wilson関係式にもとづく、厳密な格子chiral対称性との関係を明らかにした。 domain-wall fermionは数値計算に適している。上記、4の研究によって、domain-wall fermionで測定可能なアノマリーが、Dirac operatorのIndexと直接関係していることが明らかになった。この点を踏まえて、Neutron Electric Dipole Momentの計算方法の考察を進めていく計画である。
|