本年度は、電子・陽電子衝突反応でトップクォークが終状態に現れる反応の内、トップの対生成に焦点を合わせ、イベントジェネレーターおよび、測定器シミュレーター、解析プログラムの開発を行った。これらに関しては、今後のソフトウェアー開発の方向性を考慮し、オブジェクト指向技術を取り入れたものへの移行を念頭に置いて開発を進めた。現状においては、全てをオブジェクト指向化するにいたっていないが、FORTRANライブラリーのラッパーを利用することにより、今後、順次、C++で書かれたライブラリーにスムーズに移行できる設計になっている。トップクォーク対生成でのCP非保存の研究は、これまでの所、パートンレベルで100%正しく終状態が再構成できることを仮定するか、あるいは、終状態のトップクォーク崩壊で生じたWボソンからのレプトンのみに注目したものがほとんどである。ちゃんとした測定器シミュレーションを経た解析が是非必要なので、測定器シミュレーターの開発も並行して進めた。また、これまでの解析は、オープントップ領域で行われており、しきい値領域での解析は皆無に等しい。そこで、トップ対生成のイベントジェネレーターでは、しきい値補正を含めることを目標に置いた。これに関しては、ここ1年ほどの間に、高次補正が計算できるようになり、理論的には大きな進展があったが、一方では、高次補正が予想外に大きく、摂動の収束性に関して疑問がもたれるなど、混乱した状況があった。この混乱は、現在、摂動計算の方法の改良により収束する方向にあるが、完全に解決されたとは言いがたい。そこで、この研究のためのイベントジェネレーターとしては、まず、リーディングオーダーのしきい値補正を取り入れることとした。これは、しきい値領域において、トップ対のS波共鳴状態を取り込むことに対応し、トップ対と光子およびZ粒子の相互作用バーテックスのベクトル部分をQCDのしきい値補正分だけ変更することになる。しきい値領域のCP非保存の研究では、特に、トップクォークが100%に近い偏極を示すことが重要であるが、この重要な性質は、本研究で開発したイベントジェネレーターで再現することが可能である。
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