研究概要 |
高い効率で光変調可能な新しいフォトニクス材料を構築することを目指し,二つの液晶配向制御方法について検討を行った。一つは,光化学プロセスを利用した液晶光配向制御である。側鎖にアゾベンゼン部位を導入した種々の光応答性高分子液晶を合成し,それらの光配向能を評価した。ポリドメイン構造を示す高分子液晶薄膜に366nmの直線偏光を照射することによって,一軸配向性のモノドメイン構造が誘起されることがわかった。また,照射光エネルギーが0.7mW/cm^2以上の場合,誘起される配向度は系に吸収されるエネルギーの増加とともに増加するが,0.3mW/cm^2では配向変化がほとんど誘起されないことがわかった。アゾベンゼンの光化学反応には,照射光強度のしきい値が存在しないことを考えると,観察された特異的な挙動は自己配向場において協同効果を示す液晶物質に特有の現象と考えることができる。もう一つは,光物理プロセスを利用した液晶光配向制御である。本研究では光励起分子の生成という分子レベルでの電子状態変化を,液晶配向変化という巨視的な現象へと増幅することができる新しい分子システムを構築することを目的とした。測定用サンプルは,合成した新規π共役色素であるチオフェン誘導体をネマチック液晶中にドープすることによって調製した。液晶の配向変化効率は,集光したアルゴンイオンレーザーの488nmのガウシアシビームをサンプルに入射し,光誘起配向変化(光誘起屈折率変化)に基づく自己位相変調効果によって生じる干渉縞の数を指標として評価した。非ドープ系では,干渉パターンが見られず配向変化が誘起されないことがわかった。一方,色素を0.05wt%含むドープ系では自己位相変調効果に基づく干渉パターンが明瞭に観察され,非ドープ系と比較して約2桁高い光配向変化効率を示すことが明らかとなった。
|