研究概要 |
本研究はナノメートルサイズの分子素子創出の一環として,同一金属における酸化還元電位の違いを利用した新しい機能をもつ多次元的な共役系触媒を開発することを目的としている。 具体的にはビピリジル誘導体にTTFの部分骨格を組み込んだ新しい金属配位子(ジアザフルオレン誘導体,AZF)を合成し,金属の酸化還元電位が配位子の数により制御されることを検討した。Ru錯体の配位子3分子のうち,AZFとbpyの数を変えた錯体を合成し,各種スペクトルにより構造を確認した。さらにAZF1個を含む錯体についてはX線結晶構造解析により確認した。電子スペクトルでは,AZFの数が増加すると,AZFに由来する420nm付近の吸収は濃色かつ短波長シフトを示し,480nm付近の吸収は2種の配位子(AZFとbpy)と金属とのCT吸収帯と考えられる。金属の電気物性を知るため,AZF配位子の数の違いによる酸化電位をCV法により測定した。第一酸化電位はAZFのジチアフルベン部位の酸化であり,AZFの数には関係せず電位の変化は観察されなかった。一方,第二酸化電位はRu(II)からRu(IV)への酸化であり,AZFの数の増加とともに電位が増加する。また,第三の電位はジアザフルベン部位とビピリジル部位に関係しており,電位はAZFの数の増加により逆に減少している。従来の金属触媒としての利用は配位子の種類によって限られていたが,本研究は,中心金属が同一であっても配位子の数により金属の酸化電位を制御できることを示唆しており,同一金属でも配位子の数を変えるだけで触媒機能を変化させる可能性を示すことができた。
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