研究概要 |
9,10-dihydro-9,10-[1,2]benzenoanthracene-1,4-dione(トリプチセンキノン、TPQ)と9,10-dihydro一9,10-[1,2]benzenoanthracene-1,4-diol(トリプチセンヒドロキノン、TPHQ)をドナー(D)、アクセプター(A)とする二成分系結晶(TPQ_X,TPHQ_<1-X>、x>ca.0.8)を得た。結晶の色はxに依存して変わる。褐色の結晶(TPQ_<0.8>TPHQ_<0.2>)はTPQと同形であり、これは特有のディスオーダー構造を持ったTPQとTPHQの混晶であった。TPQの結晶中にはベンゼン環(D)とキノン環(A)の平行配列が存在し、ここには弱い分子間π-π相互作用(A..D相互作用)が認められた。この相互作用の存在は2種類のTPQメチル誘導体の結晶構造によっても支持された。混晶の場合、ディスオーダーのために、キノン環(A)とヒドロキノン環(D)の平行配列が一定の確率で生じ、この部分で強いA..D相互作用が起こり、これが混晶特有の色の原因と推察された。また、このD..A相互作用の強さには水素結合の関与している可能性が高い。高圧赤外スペクトル(OH伸縮振動、C=O伸縮振動、六員環のC=C伸縮振動領域)から、TPQ_XTPHQ_<1-X>(x=ca.0.8)は40kb以上では電子移動とプロトン移動の連動現象を示す可能性の高いことが分かった。 TPHQ(六方晶)とTPQ(斜方晶)の単位格子間には簡単な幾何学関係があり両者の結晶構造は類似性が高い。TPHQ(極性結晶)には興味ある誘電性質の発現が期待される六員環水素結合が見出された。
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