研究概要 |
本年度は本化学を展開する上で極めて重要かつ注目に値する諸事実を発見したので,以下にそれらについて報告する。 1. γ-Cyclodextrin-Bicapped C_<60>の効率的合成 今回我々は,表題の化学を行うために重要な極めて純粋かつ安定な本錯体[24水和物(紫色無定形)および16水和物(暗紫色板状晶,含,単結晶)]を世界で初めて定量的に得る方法を確立した。 2. γ-Cyclodextrin-Bicapped C_<60>の構造 本錯体のX-線結晶構造解析については,現在鋭意検討中であるが,本錯体(無水物および16水和物等)の最適化構造,生成熱並びにHOMO,LUMOおよびnext LUMOの分布とギャップの状態等について半経験的分子軌道法(MOZYME,ハミルトニアン;AM1)を用いて詳細に比較検討したところ,本配位化学に関する重要な計算結果が得られた。 3. γ-Cyclodextrin-Bicapped C_<60>の触媒活性中心C_<60>への電子移動 人工酵素的化学反応を効率的に行なうために重要な本錯体の触媒活性中心C_<60>への電子移動について種々検討し,以下の実験諸事実を得た。 水中で本錯体のベルト位の水酸基の酸素をFeCl_2のFe^<2+>に配位させたのち,NaOH水溶液を滴下するだけで高効率的にBicapped C_<60>1-が生成する。生成したBicapped C_<60>1-は溶存酸素によって再び徐々にBicapped C_<60>に変換され,一方,Bicapped C_<60>1-から電子を受け取った酸素はスーパーオキシドアニオンラジカル(O_2^-゚)となるが,次に,この反応系内に還元剤としてNa_2S_2O_4を加えると速やかにBicapped C_<60>1-が定量的に再生される。さらに,この電子移動については何度も繰り返しが可能であることも確認した。よって,化学的手法により触媒活性中心C_<60>へ一定かつ定量的に電子を供給することが可能となった。なお,ここで得られた実験事実に基づき電子移動のメカニズムの詳細について考察すると,電子はFe^<2+>とイオン結合したベルト位の水酸基の酸素を介してC_<60>へ移動するものと結論付けられる。
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