研究概要 |
目的の二核錯体合成用の錯体配位子となる、N-N-N-N型3,5-bis(pyridin-2-yl)-1,2,4-triazolate(Hbpt)が架橋して、残りの配位座に4座配位子(L)としてethylenediamine一N,N′-diacetate(edda)やR,R-cdda)及びbispicenやbispicchxnが配位した[Cr(bpt)(L)]^<n+>の合成を試みた。まず[Cr(bpt)(edda)](1)を合成したが、X線構造解析を行った結果、一般には不安定なunsym-cis型構造であることが明らかになった。さらに、[Cr(bpt)(R,R-cdda)]・0.5NaCl(2)や[Cr(bpt)(bispicen)](CF_3SO_3)(3),[Cr(bpt)(R.R-bispicchxn)](CF_3SO_3)(4)を合成し、これらの同定を行った。もう一つの目的であるスピンクロスオーバーにおける4座配位子の立体化学による影響を明らかにするために、[Fe(NCS)_2(bispicen)](5)と[Fe(NCS)_2(rac-bispicchxn)](6)を合成した。その磁化率の温度変化(χ_MTvsT)から、(6)では低温部での単調な減少だけであったが、(5)ではヒステリシスを伴う異常なスピン状態の温度変化が80-50K付近で観測された。この違いは、normalとabnormal型に起因する配位子場の違いによるものと考えられる。さらに、(5)では、興味深いことに、χ_MTは室温の高スピン状態のχ_MTの約25%を極低温部でもしばらく維持し、昇温過程で63Kでの極小を経て、高スピン状態のχ_MTに戻る。この特異な現象は、あたかもS=2→1→0→2となって、三重項中間スピン錯体を経るヒステリシスを伴った“二重スピンクロスオーバー"′が起こっていると推定される。ラーマンスペクトルから、極低温部は低スピン状態ではないことを示すが、メスバウアスペクトルは、低スピンと高スピンの混在を示唆している。 以上の錯体配位子となりうるビルディングブロックとしての4つの新規錯体(1)〜(4)を二核化錯体配位子とした二核錯体の合成をして、配位環境規制によって、(5)のスピンクロスオーバーの特異性の要因を明らかにする。
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