研究概要 |
a. 中間原子価を持つ錯体の合成研究は,bpmPを主配位子として,Ph(CH_2)_2COOHを架橋配位子に用い,[Fe_2(bpmp)(Ph(CH_2)_2COO)_2]BF_4おいて2.2-2.8価の原子価を有する錯体を創生することに成功した.[Fe_2(bpmp)(Ph(CH_2)_3COO)_2]BF_4の錯体の構造解析によると,2個の鉄原子周りは相互にかなり類似しているが,カルボン酸の端部分が2つのカルボン酸の間で対称的にパッキングされていない.長鎖カルボン酸の錯体では層状構造をとることで,2つ鉄原子まわりの立体配置が同一構造をとりやすくなり,鉄原子の電子ポテンシャルエネルギー曲線にダブルミニマムを生じてきたと結論される. b. [Fe_2(bpmp)(MeOPhCOO)_2]BF_4は,室温で非局在化原子価状態をとり,非局在化原子価状態から局在化原子価状態へ変わる温度が,230Kと今までの錯体に較べて50Kほど低い転移温度示す錯体の合成に成功した.さらにX線回折的には130Kでも非局在化原子価状態をとっていることが判明した.この錯体の構造は柱列状で,分子内には2回軸があり,2つの鉄部分の酸化数の変化に応じてカルボン酸が容易に変位できるパッキング構造になっている.柱列状のパッキングをとるように分子を設計すると低温まで非局在化原子価状態で存在できる錯体を合成出来ると推定される. c. trans-スチリルピリジン(trans-stpy)を配位子とした鉄錯体を用いて光照射でtrans-stpyをcis-stpyに転移させることにより,鉄の電子状態を低スピン状態⇔高スピン状態間で相互に変換することを試みた.両者ともスピンクロスオーバー錯体であり,前者は後者より低スピン状態をとりやすく,完全な作りわけは難しいことが解った.320nmの光照射でtrans-stpyはcis-stpyになることは観測されるが,それと対応したスピン状態の変化は,高低両スピン状態の吸収スペクトルの差が違いが小さい.今後,可逆反応を実験的に見いだす必要がある.
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