研究概要 |
本研究では,ディスクリートな二核,三核および四核錯体の合成を行い,それらを分子デバイスとして組み合わせた集積型金属錯体の構築を行った。架橋配位子にはオキソ,ヒドロキソ,カルボキシラト等を用い,銅,ニッケル,鉄,マンガン,バナジウム等を錯体の新規に合成し,これらの集積化について検討したところ,数種の新規多核錯体を得ることに成功し,なかでも「二核マンガン(II)錯体への光照射による混合原子価四核マンガン錯体の単離」という興味深い成果を得ることができた。原料となる二核マンガン錯体は,〔Mn(Ph_2MeCCOO)(phen)_2〕_2(PF_6)_2の組成で表されるビスμカルボキシラト架橋の二核錯体である。この錯体のメタノール溶液は暗所では全くスペクトル変化を示さないが,太陽光もしくは紫外線ランプによる紫外光を数時間照射することで溶液が淡黄色から濃褐色へと変化し,マンガン(III)に由来するd-d遷移が500nm付近に現れ,さらに光照射を続けることで〔Mn_2(O)(Ph_2MeCCOO)_2(phen)_2〕_2(PF_3)_2の組成で表されるマンガン錯体の褐色沈殿が得られた。X線結晶構造解析により,この錯体は二核マンガン(II,III)錯体がμ_3オキソイオン架橋で二重化した混合原子価マンガン四核錯体であることが確かめられた。またユニット中に存在するphen配位子が層状に近接した位置にあることから,phenのπ-πスタッキング効果が四核構造の安定化に大きく寄与していると考えられる。この二核→四核への集積化は360nm付近の波長の光によって引き起こされることがフィルターを使用した実験で確認され,明らかに光誘起により錯体の酸化・集積化が起きていることが示された。また,脱水溶媒中では集積化が起きず,逆に水の添加により集積化が著しく加速されることが明らかとなり,四核錯体中のμ_3オキソイオンは溶液中に存在する水分子に起因していると考えられる。現在Water-^<18>Oを使った確認を試みている。
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