研究概要 |
平成10年度には,これまで開発・基本物性評価をおこなった(BEDT-TTF)_4[Ln(NCS)_6]・CH_2Cl_2の磁性詳細測定と,希土類錯体を含む新しい分子性伝導体(BEDO-TTF)_x[Ln(NCS)_6]の開発・物性評価をおこなった。これらは重希土類元素(Ln=Ho,Er,Yb,Yなど)と有機伝導体成分分子(πドナー)の複合化合物で,f電子とπ伝導電子系の数少ない安定集積系として,有機伝導体の低次元的伝導性に希土類イオンのもつ特異な磁性や光物性を付加する試みとして開発した。特に平成10年度に得た(BEDO-TTF)_x[Ln(NCS)_6]は極低温まで金属伝導を示すf-π複合電子系の最初の例である。 f-π複合電子系は,極端に性格の異なる電子系がほとんど相互作用せずに共存する特徴をもつが,磁性-伝導性複合物性の実現には,弱いf-π間相互作用が働く必要がある。この点に注目して(BEDT-TTF)_4[Ln(NCS)_6]・CH_2Cl_2の低温磁性を研究し,π電子系が4K以下で反強磁性になること,f電子とπ電子がほとんど独立に振舞っていること,f電子磁気モーメントの温度変化は結晶場効果と考えられることを磁化率・比熱・ESRで示した。 新規含希土類分子性金属(BEDO-TTF)_x[Ln(NCS)_6]の物性として次の点を明らかにした。格子定数は他のBEDO-TTF塩と類似し,β"構造という二次元分子配列をとっていることが推定できる。電気抵抗は1.3K以上で金属的で,広い温度範囲で温度の2乗に比例する。f電子をもたないLn=Yの磁化率はPauli常磁性的であり,Ln=Ho,Erではf電子の大きな異方的磁気モーメントが観測される。Ln=Ybは特異的で,低磁場(約1k0e)で磁場誘起一次相転移が見出され,これはf電子が独立ではなく,格子系または伝導電子系を介して協同的にふるまっていることを意味する。
|