研究概要 |
転写因子PEBP2/AML1は染色体転座によるキメラ遺伝子の形成を通じて高頻度に白血病発症に関わることが良く知られている.本研究ではPEBP2の機能異常による発癌の機序を明らかにするために,本因子の機能的中核をなすαサブユニットのRuntドメインに注目して,その遺伝変異を利用した機能解析およびNMRによる立体構造解析を並行的に進め以下の結果をえた. 1) 先に熊本大医学部の麻生・大里らは,白血病細胞において染色体転座によらないAML1遺伝子の異常(ミスセンス,ノンセンス,フレームシフト変異)が相当の頻度(約4%)で存在することを見い出した.驚くべきことに,これらの変異は全てRuntドメイン内に集中しており,高度の機能異常が予則された.そこで麻生・大里らと協同して,これらの変異Runtドメインについて機能解析したところ,殆どの例においてDNA結合能,βサブユニット結合能,核移行能のいずれかに様々な程度の障害を示し,それに伴って転写活性化能を完全に失っていることが判明した.この結果より,AML1遺伝子は既知の染色体転座によるキメラ生成以外にRuntドメインの機能変異を通じても白血病発症に大きく寄与し得ることが新たに示唆された. 2) PEBP2αB/AML1のRuntドメインの立体構造邂析をNMR専門グループと協力しながら推進し,2次及び3次構造をほぼ決定することができた.その結果,RuntドメインはRel family属のDNA結合領域に類似したβシートのみから成るImmunoglobulin-fold様の構造を持つことが判明し,Runtファミリーの機能構造連関とその細胞内動態に関して新しい視座が開けた.
|