研究概要 |
Retは受容体型チロシンキナーゼをコードし、変異による活性化が多発性内分泌腫瘍症(MEN)2Aと2B型、家族性甲状腺髄様癌(FMTC)の原因となる。同様の変異は、散発性の甲状腺髄様癌(MTC)、褐色細胞腫の一部にも見られ、腫瘍発生の原因となる。また、Retの変異と臨床症状には対応関係がある。 Retのキナーゼ領域の変異を解析した。変異は、MEN2B型、FMTC、MTCで報告され、M918TはMEN2Bに、A883FはMEN2BとMTCに、E768D,V804L,S891AはFMTCとMTCに、E768DとA919Pの2重の変異(B768D/A919P)は転移を起こしたMTCに検出され、A919P単独の変異も解析に加えた。変異Retは活性化の高低により2群に分けられ、A883F,M918T,E768D/A919Pは高く、活性化に864番目と952番目のチロシン残基を必要とした。一方、E768D,V804L,S891A,A919Pの活性は低く、905番目のチロシン残基も必要とした。活性の高い群は合併腫瘍を伴うMEN2B型や転移を起こしたMTCといった複雑な病態、低い群はFMTCやMTCのみの単純な病態で、活性化の高低は臨床病態の重篤性に対応すると考えられた。 散発例の褐色細胞腫に報告された、細胞外領域の変異(D631Y)の解析を行った。変異Retはジスルフィド結合による2量体化を起こして活性化していた。631番目をチロシン以外のアミノ酸へ置換させても活性化せず、630番と634番のシステインを別のアミノ酸に置換する変異を重複すると2量体は形成されなかった。従って、631番のチロシンへの置換で周辺の立体構造が変化し、630番と634番のシステインが関与する分子内ジスルフィド結合が変化して分子間結合が生じ、2量体が形成されてRet活性化したと推測された。
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