研究概要 |
最近、私達は未知の増殖因子受容体の探索中に、これまでの常識では考えにくい、キナーゼ活性を欠失した新しいヒトEphファミリー受容体,HEP(EphB6),を発見した。本受容体は内因性チロシンキナーゼ活性に必須なキナーゼ領域のコンセンサスアミノ酸配列に置換を認め、内因性キナーゼ活性は全く認められないが、様々なヒト正常組織(細胞)にmPNAが高発現している。ヒト悪性腫瘍細胞におけるHEP受容体発現を解析するためリコンビナントHEP蛋白を免疫原としてマウスおよびラット抗HEP受容体モノクローナル抗体を作製した。フローサイトメトリー法を用い、ヒト血液細胞における受容体発現を解析したところ、健常人末梢血白血球においては1%程度にしか陽性細胞が認められなかった。HEP受容体発現白血球はCD4陽性のTリンパ球の一部に認められるのみで、骨髄系前駆細胞ならびに成熟顆粒球や単球、Bリンパ球やCD8陽性Tリンパ球には発現が認められない。マウス胸腺を用いた検討でもCD4+またはCDS+単独陽性の成熟Tリンパ球では発現は見られなかった。しかし、CD4+/CD8+胸腺細胞に強い発現がみられ、CD4-/CD8一胸腺細胞でも弱いながら蛋白発現が認められ、T細胞の分化/成熟に伴う生理的な遺伝子発現調節機構の存在が示唆された。ヒト白血病細胞においても、T細胞特異的発現が保存されていた。107株のヒトT細胞性白血病細胞株すべてにHEP受容体蛋白発現が認められたが、9例のB細胞性あるいは骨髄性白血病細胞株ではいずれにもHEP受容体蛋白発現は認められなかった。T細胞性白血病細胞株の中でも、成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)などの比較的成熟した腫瘍細胞ではHEP受容体蛋白発現は低く、T-ALLのような未熟な胸腺Tリンパ球由来の腫瘍細胞株において強い発現が認められた。すなわち、正常Tリンパ球に見られる分化に伴う発現調節が腫瘍細胞においても維持されていると考えられた。
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