研究概要 |
抗癌剤シスプラチンの感受性に深く関わるnm23-H1/NDP kinase Aの発現を検討し、以下の諸点を明らかにした。 (1) 対象は食道偏平上皮癌50例で、癌部をnm23-H1に特異的なモノクローナル抗体H1-229 (生化学工業)を用いてLAB法に準じて染色した。nm23-H1陽性症例は23/50(46%)、nm23-H1陰性症例は27/50(54%)であった。両群間の背景因子に差はなく、リンパ節転移との関連性も認められなかった。しかし、nm23-H1陽性群とnm23-H1陰性群の1,3,5生率は91.3%vs63.0%,67.9%vs36.7%,62.2%vs32.6%であり、明らかにnm23-H1陽性群の予後が良好であった(P<0.05)。このnm23-H1発現による予後の差はリンパ節転移(+)30例で認められたが(P<0.01)、リンパ節転移(-)20例では認められなかった。また、多変量解析により、術後EFP(VP-16,5-FU,CDDP)療法を受けた32例において、nm23-H1の発現が最も予後に関連のある因子であることが判明した(P<0.001)。 (2) アンチセンス遺伝子移入により、nm23-H1タンパク発現の異なる細胞を作製し、これらの細胞を用いてVP-16,5-FU,CDDPとの感受性を検討した。MTTassayによりnm23-H1の発現はCDDPの感受性と逆相関したが(r=-0.935,P<0.02)、VP-16、5-FUとの感受性とは関連がなかった。さらに、CDDPによるミトコンドリア膜電位差(ΔΨm)の消失率はnm23-H1低下クローンにおいて、コントロール細胞に比し明らかに低率であり、DNAフラグメンテーションの結果からもnm23-H1低下クローンはCDDPによるアポトーシスに抵抗性を示すことが判明した。 EFP(VP-16,CDDP,5FU)療法後の食道癌患者の予後とnm23-H1の発現が関連することを免疫組織学的に確認し、さらにantisense transfection assayを用いてnm23-H1の発現低下がCDDPにより生じるアポトーシスに抵抗性を示すことをミトコンドリア膜電位差(ΔΨm)の消失率およびDNAフラグメンテーションより証明した。 これらの結果は、個々の症例におけるCDDP感受性を判定する上で、nm23-H1の発現解析が重要であるばかりか、CDDPの抗腫瘍効果を増強するという観点から、nm23-H1/NDP kinase Aをターゲットとした新薬開発の臨床的有用性を示唆するものである。さらに、ガンマリノレン酸が食道癌細胞のnm23-H1タンパクの発現を誘導することが判明しつつあり、本研究の結果は、今後、nm23-H1の発現に基づいた化学療法開発の進展に大いに貢献するものと考えられた。
|