研究概要 |
海馬CA1シナプス伝達長期増強(LTP)は入力線維の高頻度刺激によるシナプス後部でのNMDA受容体の活性化,プロテインキナーゼの活性化反応と連続的に進行して,シナプスにおいて最終的に長期の可塑的変化を引き起こす.これまでにLTPにおいてCaMキナーゼIIが恒常的に活性化されること,シナプス前部,後部におけるCaMキナーゼIIの標的分子のいくつかを同定した.本研究では海馬CA1領域の錐体細胞での核内転写調節において重要な役割が示唆されているMAPキナーゼのシナプス活動に伴う活性化機構について検討した.LTPの誘発刺激に伴ってMAPキナーゼは一過性に活性化され,1時間後には刺激前のレベルに戻った.MAPキナーゼの活性化酵素であるMEKの阻害剤,PD098059は50μMの濃度でLTPの発現を完全に抑制したが,この条件ではMAPキナーゼと同時にCaMキナーゼIIの活性化反応も抑制された.これに対して,MAPキナーゼを選択的に抑制する濃度である30μMではLTPの発現に影響しなかった.さらに,神経栄養因子BDNFのLTP発現に対する効果を検討した.LTPを発現しない短い高頻度刺激をBDNF処理と組み合わせることによって安定なLTPを発現した.この時,CA1領域ではMAPキナーゼよりもむしろ,CaMキナーゼIIが持続的に活性化された(論文投稿中).以上の結果はCaMキナーゼIIがBDNFによって誘発されるLTPにも関与することを示唆している.一方,MAPキナーゼがLTP誘発に関与するというこれまでの報告と矛盾している.今後,LTPの維持期におけるMAPキナーゼの役割について検討する予定である.
|