海馬CA3野苔状線維シナプスはカイニン酸受容体を高密度に発現している。これまでに、苔状線維の高頻度刺激に応じてシナプス後部のカイニン酸受容体が活性化され緩徐な興奮性シナプス後電位(slow EPSP)の発生に寄与することが示されているが、シナプス前部のカイニン酸受容体の機能については明らかでない。本研究では、カイニン酸受容体活性化がシナプス前性の作用を示す可能性について検討した。マウス海馬スライス標本において苔状線維の電気刺激により生じるフィールド電位変化を細胞外記録法により記録した。低濃度(0.2μM)のカイニン酸投与によりフィールドEPSPは抑制され、このときシナプス前線維集合活動電位(presynaptic volley)は可逆的に増大した。低Ca^<2+>液中で単離して測定したシナプス前線維集合活動電位も同様にカイニン酸により増大し、この作用はカイニン酸受容体脱感作剤SYM2081により抑制された。これらの結果から、苔状線維シナプスにおいてカイニン酸受容体活性化はシナプス前線維の興奮性を亢進する作用を示すと考えられた。海馬CA3野はカイニン酸受容体サブユニットの多くを発現し、カイニン酸投与により過剰な興奮状態である発作波を発生することが知られている。これまでに報告された苔状線維シナプス後部の興奮作用とともに、本研究で明らかにされたシナプス前部のカイニン酸受容体を介した苔状線維入力の興奮性亢進が協同的に作用し、カイニン酸による過興奮状態に寄与する可能性が考えられた。
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