研究概要 |
我々は抗ダンシル抗体を酵素消化することにより得られるFvフラグメントを用いて,抗原認識機構の高次構造解析を行ってきた.昨年までのNMR,および速度論的手法を中心とする解析により,抗ダンシルFvの抗原結合部位を形成しているH3ループは,ハプテン非存在下において2種類のコンホメーションをとり,16(s^<-1>)の平均交換速度で移り変わっているが,ハプテン存在下では1種類のコンホメーションに収束することを明らかにしてきた.本年度は,抗原結合部位の示す動的構造と機能の相関について,より深い理解を得るために,抗ダンシルFvの大腸菌発現系の構築・部位特異変異体の作成を行い,それらの安定同位体標識NMRおよび蛍光測定法による解析を進めた. 抗ダンシル抗体産生ハイブリドーマからRT-PCR法によりV_H,V_Lドメインをそれぞれコードする遺伝子を合成した.その遺伝子を個別に発現用ベクターに組み込み大腸菌発現系を構築し,V_H,V_Lを封入体として得た.次いでこれらの封入体蛋白質を変性剤存在下で等量混合し,段階的に変性剤濃度を低下させることにより,Fvを再構成した.その結果,V_H,V_Lドメイン各々1Lの培養から約3mgのへテロダイマーFvが得られた.また,ハプテンの認識に主要な役割を果たすH3ループに存在するTyr残基の部位特異変異体を作成した. 蛍光測定により,得られたリコンビナントFv(WT)は,酵素消化により得られたFvと同様の結合能を有することが判明した.また,H鎖Y96F変異体(Y96F)の結合定数は,WTと比較し1/5に低下していた.Y96FのNMR解析の結果,WTで観測されていた2種類のコンホメーションに対応するNMRシグナルが,Y96Fでは観測されなかった.したがって,Tyr96の両親媒性が,抗原結合部位に存在する構造多形現象および結合能に関与していることが示唆された.
|